「んっ…、…は、ぁ、」

 頭上から降ってくる悩ましげな吐息。否、正確に言うなら腹の上から、だ。
 今日はオレがやる、なんて珍しいことを言いながら早々にジャックを押し倒した遊星は、既にその上へ跨がり後孔にジャックのモノを銜え込んでいた。その行動に驚いたのはジャックの方で、まさか酒でも盛られたかと疑うがそんな様子もなく。遊星も遊星で遊び半分の冗談ではないのだと言うようにジャックの反論を全て聞き流し本気なのだと訴える。ジャックは遊星に乗られながら、大人しくする他に無かった。
 寝台で無理矢理横にならされたジャックの上、頬を薔薇色に上気させ薄らと涙を湛えた紺青の瞳を僅かに伏せて、鍛え上げた腹の上に手をつきゆるゆると腰を振る遊星の姿はこの上無く劣情を煽る。こんな体位――所謂騎乗位というやつだが、ジャックが強要することはあっても遊星自ら進んでやるなど本当に珍しい。
 乱れ零れる吐息、控え目な嬌声。それに確かな快感を得ながら、しかしジャックは何処か満たされない想いを感じて柳眉を顰めた。
 ――何だ? 何が足りない?

「っ…ん、…ジャック…?」

 その様子に気付いたのか、遊星が濡れた瞳でジャックを見下ろした。低すぎない心地の好い声は、今は快楽に掠れ僅かに上擦っている。

「…よく、ない…か…?」
「いや…、」
「…だが、…あまり、そうは見え…ない、」

 僅かばかり不安そうにそう訊ねてくる遊星に、ジャックはそんなことはないと続ける。そう見えないのではなく彼の男としての矜持がそれを見せないようにしているのだが、遊星からすれば恋人が自分との行為で快感を得られていないのではないかと言いたいようだ。
 可愛らしいことを危惧する遊星に、ジャックはふ、と微笑って揶揄うように言ってやる。

「…そこにオレを銜えておきながら、わからないと言うのか?」
「ッ、…そうじゃ、ない、っ、」

 ジャックの言葉に、遊星はかあ、と紅潮させた顔を今更のように逸らす。それを好機と見て下から緩く突き上げてやれば不意を衝かれた遊星はびくんと身体を跳ねさせ、同時に遊星がジャック自身を締め付けて、二人揃って息を詰める破目になってしまった。

「っ…、…あまり締めるな、」
「ッ…ジャックの、所為だろ…」

 大人しくしていろとでも言わんばかりのサファイアブルーに睨まれ、ジャックは苦笑する他無い。そろそろ我慢も限界なのだが飽くまで自分がやると言って聞かない遊星は、乱れる呼吸を整えるようにひとつ息を吐いて行為を再開する。ジャックの方へ倒れそうになる身体を震える腕で支えて、ゆるゆると腰を揺らしては時折ぴくんと背を反らせて熱を孕んだ吐息を零す。その度に熱く絡み付く遊星の中で、否応なくジャックの熱も高まっていって。

「ッふ、っ…じゃっく、きもち、いい…か…?」
「…あぁ、いいぞ遊星」

 辛そうに眉根を寄せる遊星に手を伸ばし、左右に跳ねた特徴的な髪を宥めるように梳く。
 受け身である遊星の負担はジャックが思う以上だろう。それでも懸命に恋人を喜ばせようとする遊星がひどくいとおしく、そのまま頬まで手を滑らせ滲んだ涙を指先で拭ってやると、その手に遊星のそれが重ねられた。

「…遊星?」
「…っ、ジャックが、感じてくれてる…なら、…嬉しい、」

 ――ふわり、と。そう言って浮かべた遊星のその表情に、ジャックの思考は一瞬停止した。
 満足げな、穏やかな微笑。普段引き結ばれている口角を僅かだけ上げ、快感に蕩けて揺れる瞳をやわらかく細めて。
 刹那沸き上がった衝動にジャックは口許に自嘲を刻む。こいつに――遊星という存在に溺れてしまう自分が忌々しい。
 足りない。――もっと、もっと。

「ッぅあ…!?」

 上がった悲鳴を無視して繋がったまま体勢を入れ替える。余り良い寝台ではないから即座に腕を回して支え、倒れた背中を打ち付けないようそっと寝かせれば、先程までジャックを見下ろしていた青眼は完全に見上げるかたちになり、突然のことにぱちぱちと瞬きを繰り返していた。

「気が変わった」
「っえぁ、な、なん…?」
「やはりオレは組み敷く側が合っているようだ」

 ぽかんと口を開けたままの遊星ににやりと笑って、噛み付くようにくちづける。そのままぐん、と腰を突き上げれば合わせた唇の隙間から零れるのは歓喜の声。
 己の手で愛しい存在を啼かせているということに足りなかったものが満たされるのを感じながら、ジャックは遊星の耳へと注ぎ込むように極上の愛を囁いた。
























多分サテライト時代。
ジャックは根っから攻め気質だと思う。