幼馴染みの二人が恋人同士になったと知った時の衝撃をお解り頂けるだろうか。そりゃあもう驚いたなんて生易しいものじゃない。それこそガキの頃から十数年親友やってる二人に、いきなり「オレたち付き合うことになった」なんて真顔で言われて、冷静でいられる奴なんていると思うか? いないだろう、いるわけないだろうそんな奴!
そんなわけで、その衝撃の告白に割と平然としている本人たち以上に大騒ぎしたのはチーム・サティスファクションに起こった些細な事件として記憶に新しい。とは言え幼い頃から兄弟同然のように育ったおかげで昔から何だかんだで仲の良い二人であったし、二人の間にある関係が自分と彼らの間にあるそれと若干異なることにも気付いていた。言うなれば彼らと自分は無二の親友で、二人は好敵手同士のような。その関係が何時何処で恋愛に発展したのかは定かではない。しかしながら、何だよオレだけ仲間外れかよーなんて多少の疎外感はあれど、二人の淡い恋(?)が成就したのであればそれは親友として兄弟として祝福すべきことだろう。
そう、だからそのことを打ち明けられた時、二人にはおめでとうと告げた。しかしそれから暫くしてふと、驚きの方が勝って忘れていたことが意識の片隅に浮上して来たのだ。
「で、さぁ」
「何だ」
「お前、アイツのどこが良かったんだ?」
具体的に。と、二人の幼馴染みの片割れ、遊星がチームのリーダーである鬼柳と出掛けていて居ないうちに、もう一人の方の幼馴染みに訊ねてみた。テーブルの向かい側で手札を睨んでいたジャックはデュエルの真っ最中に振られた話題に一瞬怪訝そうな眼差しを返すも、少し考えるような仕草で四枚の手札から一枚を選んで机上に広げたフィールドに伏せ、口を開く。
「何処、か…敢えて言うなら全てだが」
「うっわ、そういうのうぜぇ…相変わらずキザな奴だなお前」
「煩い。ツイン・ブレイカーで攻撃」
「げ、」
惚気る様子もなく、さも当然のようにさらりとそんな台詞を吐くジャックに嫌味を込めつつ言ってやるが、一瞬機嫌を損ねた程度の反応は普段と何ら変わりない。この余裕が気に入らないと言うかムカつくと言うか、遊星の奴もどうしてジャックを選んだのか甚だ疑問だ。倒されてしまった己のモンスターを墓地に置き、ライフ計算をしつつジャックが二枚のリバースカードをセットするのを待って話を続けた。
「そうじゃなくてよ、具体的に」
「…そうだな、あいつには庇護欲をそそられると言うか」
「あー…それはわかるわ。あいつ何だかんだ危なっかしいもんなぁ…」
「あれで昔からお前以上に世話の焼ける奴だからな」
「んだよ、お前だって扱い難いったらありゃしねえぜ。あ、エンドフェイズに今伏せた右の破壊な」
「む…小癪な」
予め伏せて置いた罠カードを発動させれば、どうやらキーカードを潰せたらしくジャックは苦い顔を見せた。デュエルでならばそういう表情を見せるのだが、当事者である筈の話題に動揺の欠片すら全く見せないというのもどうなのだろうか。余程遊星に好かれているという確信があるのか、今のジャックは何時もより若干機嫌が良いようにも見える。――此処に来て漸く、まずいことを訊いてしまったような気がしてきた。
「んで? 結局のところお前は遊星が放っておけなくて、恋愛に発展したと」
「まあ、そんなところだ」
「…納得出来るっちゃあ出来るけどよ。その余裕っつーか自信っつーか、お前のそれはどっから来るんだ…」
「現に恋人なのだから自信があって当然だろう。可愛かったぞ? オレも好きだと言ってやったら頬を染めて上目遣いで見、」
「あーあーあー、もういい、わかった! お前があいつのことが大好きだってのはよーくわかった!」
ついに本格的に惚気出したジャックの言葉を遮って無理矢理話を終わらせる。話を振ったのはそっちだろうと眉根を寄せるジャックを無視して新たなモンスターを召喚し、ジャックの戦術を何とか崩そうとカードを伏せ、エンドフェイズを終了するとターンエンドの宣言と共に溜息が出た。いかん、食傷気味だ。聞かなければ良かった……今更そう思っても後の祭りだが。
「…ふむ。あとは…そうだな、」
もういいって言ったの聞いてましたかジャック・アトラスさんよ…。げんなりしながら見遣れば、同時に抜かり無くデュエルの戦術を考えているらしいジャックは、やはり平然とした表情でドローを終え。
「嗜虐心を煽られるというか、色々やって泣かせたくなる」
「…それ、庇護するべきはお前の魔の手からだよ……」
遊星が帰って来たらくれぐれも気をつけろと伝えよう。若干危ない嗜好を持ち併せてしまったらしい親友を見ながら、近いうちにその受難を被ることになるであろう幼馴染みに向け、心の中でひっそりと合掌した。
オーディール(ordeal)…受難
誰のって主にクロウと遊せ(ry 京介は寧ろ一緒に楽しむ