自己満足ってこういうことか。71話スキマ工作。
※まあ大体何時も通りなので注意






























 シャッターを切る音がする。ピントを合わせようとレンズの動く音がする。
 機械の音は好きだ。部品同士がぴたりと噛み合い動作を成す、それを示す音は心地好く、自分にひとときの平穏をくれた。心に安寧を齎す音。落ち着ける、音。
 だが今は、今だけはそれが、まるで死神の鎌が振り降ろされ、己の魂をズタズタに引き裂く音に、聞こえる。

「ほら、キレーに写してやれよ」
「折角ニューキングさんが写真撮らせてくれるって言うんだからよォ」
「遊星くーん、もっと脚開いてくれるー?」

 トレーラーらしき車内は目覚めた時と変わらず仄暗い。微かな灯りの中でパシャリと切られるのは、何度目かもわからないシャッター音。同時に光るフラッシュの閃光に辛うじて開けていた目が眩み、疲労に重い瞼を反射的に降ろす。しかし閉じてしまえば最後そのまま気を失ってしまいそうで、遊星は残った気力だけでもう一度目を開けた。泣いてはいない筈なのに、目の奥がじわじわと痛む気がする。
 ロープで縛られ、吊り上げられたままの腕。中途半端に脱がされたジャケット、胸元までたくし上げられたタンクトップ。下肢に着けていた衣服は下着ごと剥がれ、座らされた床は酷く汚れていた。半開きで浅い呼吸を繰り返す口の端から、飲み込めない涎に混ざって誰のものとも知れない精液の残滓が垂れている。
 霞みかけた視界には、数人の男の姿があった。その男たち――此処に遊星を捕らえた奴らは、満身創痍の遊星を観ながら下卑た笑い声を上げている。
 ――不快だ。

「いいねえ、そのカオ! そういうのが好きなお客さんにはたまんねえだろうなァ」
「…、」

 心中での呟きは顔にも出ていたらしい。無表情だ無愛想だと言われる表情筋はこんな時ばかり役に立たない。ねっとりと絡み付くような忌々しい男の声に、遊星は口に出さず毒づいた。
 遊星を気絶させ拉致した男たちは、遊星たちが目指しているワールドライディングデュエルグランプリに出場するチームだという。つまり妨害か、と、攫った目的を問い質すまでもなく相手の目的を知ることは出来たが、そこからが問題だった。妨害は即ち、前回のフォーチュンカップ優勝者――今大会で最大の障害になるであろう、不動遊星に対するもの。
 弱味を握り脅そうとでもいうのだろうか。遊星を拉致した男たちは最初からそれが目的だったらしい。腕を拘束され抵抗を封じられた遊星は、複数人に群がられ、散々に犯された。快楽なんてありはしない、ただただ不快に不快を重ねて齎されたのは激しい苦痛。身体中を、普通であればあり得ない場所まで気持ち悪いくらい弄り回され、めちゃくちゃにされ、その様子を映像に、写真に収められる。制止や拒否が聞き入れられる筈も無い。そうしてぼろぼろにされて、今漸く一度解放されたところだった。
 しかし男たちの陵辱は止まらない。終わったというのに薬を打たれ、それが遊星をじわじわと蝕み変化を齎すのを今か今かと、まるで獲物の最後の抵抗を見せ物にするようにしながら待ちわびている。一様ににやにやと不快な笑みを浮かべて。

「そろそろ薬が効いてきたか? ん?」
「…触るな」
「おおこわい。随分と強情だなあ、ここまでされてんのに」

 写真に写そうと顔を持ち上げようとする手を振り払い、遊星は俯いたまま射殺すように男を睨み上げた。しかし相手は堪えた様子もなく、眼下の獲物に舐めるような視線を向け、舌舐めずりでもするかのように笑う。
 ――何とかこの状況から抜け出さなければ。けれども縛られた両腕は何度もがいても外れそうになく、抵抗は尽く封じられ、その上未だ陵辱は続いているのだ。薬の所為で緩く芯を持ち始めている自身には射精を封じるリングが嵌められ、つい先程まで無惨に蹂躙されていた後孔は注ぎ込まれた欲望が零れ出すのを防ぐかのように、今なお無機質な性具を突っ込まれ微弱な振動を与えられ続けている。ただ只管不快なだけだったその刺激が別のものに変わろうとしているのを意識しないように努めて、遊星は堪えるように細く息を吐き出した。
 この状態を何時まで続ける気なのかと、焦燥からくる苛立ちに遊星は歯噛みする。自分はどうなろうと構わないが、二人に――ジャックとクロウにだけは迷惑をかけたくはなかった。こんなことが原因で、三人で目指して来た夢を壊されたくない。諦めるなど以ての外だ。早く、早く何とかしなければ――。

「辛そうじゃないか。楽にしてやろうか?」
「……誰、が、ッ」

 揶揄するような声に忌々しく吐き捨てる。しかし無意識に呼吸を止めていたらしく遊星が苦しげに喉を喘がせると、シャッター音と一瞬の閃光と共に、ほら、とまた笑いが降って来た。与えられ続ける屈辱に、沸き上がる衝動に耐えようと、血が出そうなほどに唇を噛み締める。
 じわりじわり、身体の奥で燻る熱が這い上がってくる。吐き出した息が、熱い。

「あんたにやったクスリ、あれ結構強い奴なんだがなァ…おい、カメラは?」

 そう言って仲間へ問い掛けた男の声に、遊星は不穏なものを感じ取り身構えた。男たちが何やら確認を取り合った後、幾つかあるレンズが一斉に遊星へ向けられる。改まるように遊星へと向き直る男。車内の暗闇に響く、全身に纏わりつくような、視線と笑い声。
 ――嫌な予感を感じた時には、既に遅かった。

「…さぁて、そんな強情なキングさんには、思いっきり啼いてもらわねえとな!」
「――ッ!! ぐ、ア、あ゛ああぁッ…!!」

 靴を履いたままの男の足が、無防備なままの下半身に振り降ろされる。避けることも出来ず局部を踏みつけられ、耐えられる筈もなく遊星は絶叫を上げた。

「ハハハッ、流石にこうされたら堪んねえだろ!」
「やめ、っぁぐ、ッうああ゛ぁア…ッ!」

 引き裂かんばかりに迸る悲鳴を余所に、男は笑いながら靴底でごりごりと遊星の性器を擦り上げた。急所への容赦の無い衝撃に全身が引き攣る。喉を反らせ、痙攣する足先が逃げようと床を蹴るが、すぐ後ろは壁だ。その上両の腕は未だ一纏めに繋がれ、なけなしの抵抗も無意味で。
 加減も何もあったものじゃない、想像を絶する激痛。しかし薬の効果か、痛みと共にそれを遥かに超える別の感覚が、電撃に打たれたかのように全身を駆け巡った。その得体の知れないそれ、は、熱いのにぞくりと背筋を震わせる――快感、だ。
 自覚してしまえばそれは一層明確なものとなり襲い掛かってきた。性器に与えられる凶悪な衝撃と後孔を犯す振動、両方からの責め苦に遊星の思考は動揺に染まる。陵辱された時には屈辱と怒りと痛みしか――快感など、感じなかった筈、なのに。
 信じたくなくてぎゅっと目を瞑る。身体の奥底から沸き上がる熱が、決して認めてはいけない快楽が、ゾクゾクと急激に這い上がってくる。
 奇怪しい、こんなのはおかしい――!

「なんだ…お前マゾか? こんなガチガチにしやがって、天下のデュエルキングサマが踏まれて感じてんのかよ…」
「ち、違…っひ、あ…あ! ちが…ぁっうあ、ア、や…」

 違う。そんなはずはない。遊星は必死に否定を繰り返すが、それは次第に荒らぐ吐息と高くなっていく自分の悲鳴に掻き消されて意味を成さなかった。自身から溢れ出た先走りがぐちゃ、ぐちゅと粘着質な音を立てる。耳を塞げたらどんなにいいだろうか。必死に冷静さを取り戻そうとしてもその音が邪魔をして、直接の刺激と水音、男たちの嘲笑が頭の中を掻き乱し、遊星を追い詰めた。
 このまま先程のように事が進めば、正気を保っていられる気がしない。――いやだ。そんなのは嫌だ。何でもない顔をして、動揺も不安も恐怖も、何一つこんな奴らの前で見せることなどしたくはないのに。

「ほら、顔が映らねえだろ…こっち向けよ」
「っ、ッや、」

 せめてもの抵抗だと俯こうとした顎を乱暴に掴まれ、無情にも無理矢理に上向かされた。思わず開いた視界に飛び込んでくる閃光と、乾いた音。
 無機質なレンズが、自分を見つめている。

「やっ…ぁ、やめ、ッみるな、撮るなァ…ッ!」
「ハハハッ、何言ってんだよ! 撮らせてくれるって言ったのテメェだろォ?」
「マーカー付のその顔もしっかり撮って、いい値段で売り捌いてやるから安心しな!」

 取り囲む男たちの哄笑が残酷な響きをもって車内に谺する。自分の身に迫っていることがここに来て現実味を帯び、急激に襲い来る絶望に、遊星は目の前がぐらりと揺れるのを感じた。――否、これが現実だと信じたくなかっただけで、最初からこうなることくらい予想出来た筈。苦痛と屈辱だけなら耐えられると思ったのだ。もっと早く、最初から罠だと気付いていれば。油断していた己の責任だ。
 快楽に溺れ怯える自分はどんなに酷い顔をしているだろうか。びくびくと身体を震わせ、あられもなく声を上げて、無惨な仕打ちに悦がる姿はどれだけ醜いだろうか。
 想像もしたくない、けれどもそれをレンズの前に晒してしまっている――その事実が、耳に届く機械音と共に、遊星の精神を引き裂いていくようだった。

「やだ、っや、アぁ、ふッ…!」
「そんなこと言って、しっかり感じてんじゃねえか…ああ? キングさんよぉ!」

 いやいやと弱々しく首を振るのを阻むように前髪を掴まれ、罵倒と嘲笑が降り注ぐ。いやだ、嫌だ、苦しい、気持ち悪い。
 シャッターを切る音も男たちの笑い声も、粘ついた音も悲鳴も、全部ぜんぶ聞きたくない。伸ばされる腕も手も、その体温も、全部、ぜんぶ。
 気持ち悪い、きもちわるい。やめろ。やめろ――!

「う…ぁ、あ、や――…」

 ぐらぐらと視界が、頭が揺れる。見開いたまま閉じられない瞳から何かが流れ落ちる感覚。目の中が熱くて、頬を伝う感覚は次から次へと溢れて止まらない。
 絶えず浴びせられていた忌々しい音が急激に遠くなる。自分の周囲がフィルターを通したようにぼやけて、次第に何も聞こえなくなっていく。
 ――…ああ、限界、だ。


 そう思うのと殆ど同時に、意識が白く塗り潰された。
























この後犯人たちはアキちゃんたちから連絡を受け駆けつけたジャックとクロウと牛尾さんにフルボッコにされ遊星さんは助け出され写真やらビデオやらのデータもメモリーカードどころかカメラ本体ごとその場で抹消されました。めでたしめでたし?

……っていう妄想を して まし た。(71話予告)
遊星さんの心と身体のケアはジャックとクロウのお仕事ですねわかります。