※無理矢理スキマ工作
――無機質なこの城の中できらめくのは数多の粒子か、それとも星空色から流れ落ちる雫なのか。
細い肩と背中が激しく上下するのを黙って見下ろす。苦痛に喉を喘がせ必死に耐えるその姿を、本来の記憶を取り戻した己は乱暴を強いている身でありながら静かにせせら笑っていた。
荒い呼吸が聴覚を掠めていく合間にひどく粘着質な音も混ざる。碌に慣らしもせず無理矢理に繋げた場所の惨状に心は痛まない。無視して怒張を突き入れれば、喉奥から押し出されたような悲鳴が上がった。その衝撃に咳き込み、目の前の冷たい壁に縋り付く姿も、意に介さない。
遊星ギアの回転軸にその痩躯を押し付け、細い腰を乱暴に掴んで背後から犯す。注挿を繰り返す度に裂けた穴から血と体液の混ざったものが掻き出され床を汚した。
快楽など与えない、ただの暴行――それを以てして教えてやるのだ。
「ッ、……ブ、ル、」
「……何度言えば理解する? 僕はブルーノじゃない。アンチノミーだ」
「っぐ、ぁああッ、う……!」
ぐちゅりという不快な音に思わず顔を顰める。押し殺し切れない呻きの合間に呼ばれる名前は今の己のものではない。こちらを振り返ろうとする頭を掴み柱へ押し付け、現実を突き付けるように否定し、蹂躙する。それでもまるで馬鹿の一つ覚えのように繰り返されるのは違う名前だった。何故わからないのか。解ろうとしないのか――ならばもっと手酷く扱うだけだ。
襟足に隠れた首筋に口を寄せ、容赦無く歯を立てる。一瞬びくりと震えるのと同時に鈍い悲鳴が零れ、じわりと鉄の味が口内に広がった。急所の傍を狙われた身体は強張り、縋るものと逃げ場を探して指先を彷徨わせる。そのまま傷口を吸い上げれば己の怒張を銜え込ませた後ろの締め付けが増した。
その瞬間を見計らって、内壁を最奥まで一気に擦り上げる。
「ッ、――……!!」
細い肢体ががくんと大きく揺れた。衝動に抗うかのように鋼鉄の柱へ立てた爪は虚しく滑り、背を撓らせ、声もなく達する。数瞬遅れて中へ注ぎ込んだ熱は追い討ちとなり、吐き出された精液はばたばたとその足元へ落ちた。
「ッ、っ……ぁ、……ッ……」
「身体は正直だな……敵に犯されているのに、快感を得ようとする」
「……っ、う……」
荒い呼吸と息の詰まるような声を聞き流し、萎えた自身をずるりと抜き去る。暴虐な仕打ちに完全に閉じることのない穴から精液が溢れ出るのを、何とも言い難い気分で忌々しく一瞥して、ふと気付いた。――聞こえる喘鳴に、いつの間にか僅かな嗚咽が混じっていることに。
滴り落ちる残滓とは別の雫が静かに床を叩く。一粒、二粒――まるで星屑が零れるようなそれは、モーメントエネルギーの光を反射して、きらめく。
「……理解したか、不動遊星」
意図せず支えになっていた手を離すと、その身体は簡単に崩れ落ちた。膝が折れ、縋りつくことを諦めた両手が力を失い、ゆっくりと滑り落ちる。
自らの吐き出した白濁へ沈み涙するその背中を、己は冷静に見据えて――否、冷静を装って見つめていた。呼吸器官が言うことを聞かない、うまく息が出来ない。心臓の鼓動が煩いのを、細い背中へ伸ばしてしまいそうな手を宛てがい、押し潰す。
――これを以前の自分が見たならどう思う。答えは簡単だ。若しこの衝動が自由になるなら今すぐにでも自分で自分を殺す。明確な殺意が己の内で燃え上がっているのを、自分は最初から感じていた。殺して、今すぐ彼を抱き締めて、あの星空から零れる涙を拭ってキスをして愛してると告げてそれから、それから。
心がずきずきと激痛を訴える。記憶が悲鳴を上げ、喚き、叫ぶ――遊星、遊星、遊星、ゆうせい!!
(――遊、星、)
それでも己は、彼の前に立ち塞がらねばならない。――この想いを、犠牲に。