りみっとおーばーにゃん×2しんくろ!(いぬねこだぶるゆ)
――時刻は遅めの昼食を終えた休日の午後二時過ぎ。姿の見えない弟犬と黒猫を探して来てみれば、案の定彼らは陽だまりの中にいた。
麗らかな午後の陽気は眠気を誘う。窓からの陽射しがつくる日向は暖かく、吹き込む風はやわらかい。昼寝をするには絶好の環境だろう。床には都合良く――もとい板張りの硬い床に直で寝転がる黒猫の姿が絶えないので用意したものだが――絨毯が敷かれていて、探していた二匹はその上で無防備に寝転がっていた。仰向けに転がる双子の弟犬は服の裾が捲れて臍が出ているし、その横にぴたりとくっついてすぴすぴと鼻を鳴らしている一回り小さい黒猫の姿は何ともまあ長閑な光景だ。仲が良いのはいいことだが……やれやれと両手に抱えていた毛布をかけてやる。どんな夢を見ているのやら、むにゃむにゃと口を動かす弟はかなり間抜けな顔を晒していた。踏んでやろうか。己によく似た青い尻尾を見て俄にそんなことを思いついたのも、こちらを差し置いて二匹で仲良く午睡に浸っているからであって。
食欲も満たされ一段落ついたこの時間帯に眠くなるのはよくわかる。善くも悪くも本能に正直なのは構わないのだが、こちらはそれを我慢して昼食の後片付けやら何やらを漸く済ませたというのに、こうも悠々と惰眠を貪られてはあまり良い気はしない。すやすやと寝息を立てる二匹にこちらは溜息を零して、窓の外へと視線を投げた。晴れ渡る空は雲ひとつ見当たらない。洗った食器は籠の中にて水切り中、干しっぱなしの洗濯物は……この天気ならもう暫くそのままでも構わないだろう。
毛布と一緒に持って来ていたクッションを黒猫の隣に放り投げ、立ち襟のファスナーを下ろして寛げる。穏やかな気候につられて漏れ出る欠伸も今は堪えず野放しにしてやった。絨毯に投げ出された黒い尻尾を潰してしまわないようそっと除け、そのままごろりと横になる。もふん、とやわらかいクッションが衝撃を受け止め音を立てた。
横を向けば反対側にいる弟に寄り添うように眠る黒猫が目に入る。そろそろとその背中に近付くが、ぺたりと寝たままの猫耳には微塵の警戒も見られない。
「……遊星」
「っ、ん……」
耳元で囁くと、びくっと黒猫の身体が小さく跳ねた。吐息を吹きかけるようにすれば黒に稲妻を走らせる耳がぴくぴくと反応を見せる。安眠を妨害されて嫌なのか眉根を寄せるのがひどくいじらしい。調子に乗って舌を這わせると微かな声で呻いて、つやつやとした毛並みの尻尾が咎めるようにしてぱたりと揺れる。不機嫌そうにするがしかし起きてはいないようだ。向こう側にいる弟も相変わらずぐーすかと暢気な寝息を立てているのをいいことに、黒猫の細い身体を抱き締めようとした――のだがしかし黒猫は逃げるように弟の方へ身を寄せてしまい。その上逃げられた事実に呆然とするこちらを嘲笑うかのように、彼の表情は安心を表して元の穏やかな寝顔へと変わったのだ。
がん、と頭をジャンクで殴られるような衝撃に目眩が起きる――何故だ、何故弟の方ばかり。負けた気がして悔しいと思ってしまうなど大人げないにも程がある気はしたが事これに関しては別問題だった。独り占めなど断じて許さない。愚弟にばかり良い思いをさせてなるものか!
沸き起こる衝動のままに逃げた黒猫を引き剥がし抱き寄せようとして、ふと感じたのは突き刺さるような視線。何事かと顔を上げると、黒猫を挟んだ先で寝ていた筈の弟犬が、警戒を露にその身を起こしていて。
「何してるの兄さん……」
うわあ、と。そう言わんばかりの表情を浮かべる己とそっくりな顔と、目が合った。