stargazer(ジャ遊)





 願い事をしよう。そう言い出したのはどちらが先だったか、今となっては曖昧な記憶の彼方にある。雲間に煌めく星空と流星群。そうして重ねたてのひらはまだ互いに小さく、世界を掴むには程遠かった。
「我が事ながら幼稚な願望だったな」
 ネオ童実野シティ西地区は時計屋ポッポタイムの屋根の上。ふん、と鼻で笑って、隣の男が唐突に呟いた。時折吹き抜ける涼風が金糸を揺らしている。久方ぶりに故郷へと戻って来た彼は、酒も入り二人きりということもあってどこか上機嫌だった。手にした缶は何本目だっただろうか、数えるのも野暮な気がして最初から気にしていない。
「何年前の話だ……」
「二十年は前か」
 振られた話は随分と昔――この街から上層と下層という概念がなくなるよりずっと前の話だった。正確に言えば二十と数年前の話になる。育った家を夜中に抜け出し、空を厚く覆う雲の隙間に星を見た。言い伝えや御伽話を信じる子供ならではの発想――流れ星が消える前に願いを唱えれば叶うというアレを、流星群が見られるかもとの言葉を受けて実行した。今思えば確かに幼稚な行動だろうが、本当に子供だったのだから仕方がない。
 デュエルにおいて世界の頂点に君臨する男、ジャック・アトラス。モーメントシステムの新技術開発を先導する科学者、不動遊星。あの頃は二人とも、迷信を信じるただの子供だった。今や揃って三十路の手前を迎えたことを考えれば、その付き合いはそろそろ三十年になるところ。長いなと、思わず過った思考に笑みを零すと、目聡く見留めた男が紫の眼光を鋭くする。
「遊星、貴様忘れていたのではないだろうな」
「まさか。憶えていたさ」
 忘れられていると思っていたのはこちらだというのに。苦笑しながら返せば、彼は納得したように酒を呷る。飲み過ぎだと言ったところで久し振りなのを理由に聞く耳を持たないのだから仕方がない。本気で咎めようとも思わなかったが。
 成長し、互いに男らしく骨張った手をどちらともなく重ねる。カードを扱う滑らかな手と機械弄りで古傷だらけの手は、互いの進んだ道が違うことを明確に示していた。見上げた夜空には星が煌めき、尾を引いて流れて行く。あの時と、同じように。存外、あれは迷信ではないのかも知れなかった。
 ――ずっと一緒にいられますように。幼い願いは、今も変わらず続いている。