彼はよく痕をつけたがる。
「ぁ、…は、…ジャ…、」
「遊星、」
「う、…ッ、いた…、」
名前を呼ばれ、首筋に何度目かもわからない痛みが走る。びく、とちいさく肩を竦めれば宥めるように髪を梳かれたが、何箇所にも残る痺れるような痛みは和らがなかった。
どうやら彼は相手の身体に痕を残すのが好きらしい。此方からすれば不必要だと思える程、行為の最中に暇さえあれば、この身体の至る所に所有印を残す。それはただ印を付けるだけではなく、歯を立てて噛み付いて、時には血が流れるような痕を身体に刻み付けるもので。何度痛いと訴えても彼はやめようとしなかった。
甘噛みならいいところを本気で噛んでくるのだから、冗談でなく痛いのに。
…それで感じている自分は、どこかおかしいのだろうか。
「ッ、…ジャ…ク、…いたい、」
は、は、と短く荒らぐ吐息の合間に言うが、後ろから此方を抱き込む彼は耳元に顔を寄せて。
「そうしているのだから当たり前だ」
「い、…ッ、ふ、…ぅ、」
付け根の柔らかな部分にまた噛みつかれ、思わずびくりと身体が跳ねる。
ずっとそんな調子で、更に身体中弄られて、熱が上がらないわけがないのだ。
「…ぁ、…は…」
「…遊星」
「…なん…、ッ…?」
ぐい、と強引に体勢を変えられ、互いに向き合う状態に紫色の瞳と目が合った。
それを熱で揺らぐ視界のまま覗き込めば、数瞬の後にふ、と微笑うように細めた彼が鎖骨の辺りに顔を埋めてきて。
鋭い痛みが唇を寄せられた場所に走る。
「…そこ…だと、見え…」
「持ち主の主張だ。構わないだろう?」
ああ、またそう勝手なことを。
服で隠せない位置に噛み付いてくる頭を縋るように抱いて、相変わらずな奴だと、そう思ったが抵抗する気は湧いて来なかった。
身体の奥から募る熱でぐらぐらと揺れる頭は、やっぱりどうかしているらしい。
「(…そんなこと、しなくても、)」
――オレはお前のもので、お前だってオレのものなのに。
首筋にまたひとつ痕を刻まれながら、ふとそう思った。
蟹だって独占…欲…?