※妄想も自己満足も甚だしい














 ジャックの口から覗いた舌が、腕の痣を緩慢になぞる。視認すると同時に微かに濡れた音が響くも、それは自分の煩い吐息に紛れてよく聞こえなかった。舐められているという感覚もそこからは伝わって来ない。感覚が、無い。
 あれ以来己の腕にくっきりと浮かび上がった竜の痣。星の民の伝説に残る赤き竜の尾を象ったそれは時折――特にデュエルの最中に、まるで何かを伝えるかのように疼くのだ。
 熱さと、痛みと。酷い時には肩から指先まで感覚が無くなり、代わりに身を裂くような苦痛に襲われる。今が、そうだった。

「っ…うぁ、は、…っつ、ぅ、」
「…遊星、」
「じゃ、…う、うぅ…ッ」

 デュエルの最中に疼き出した痣の所為で立っていることも出来なくなって、運ばれた寝台の上で苦痛に呻く。完全に浮かび上がっていなかった頃のものより圧倒的に強い痛みに、零れるのは言葉にもならない喘鳴ばかり。
 じりじりと灼けつくような、腕から這い上がって来るような感覚が気持ち悪い。痣から伝わる痛みはサテライトの喧嘩で殴られるそれとも、過去収容所で受けた拷問のような取り調べのそれとも違う。全身を這い回るような、赤い熱。脈動するそれは全身に伝わり、身体中を、頭の中まで見えない力に締め上げられているような。躯だけでなく意識すら、それに冒されつつあった。
 未だ自由の利く左手でシーツをきつく握り、ぜえぜえと荒くなる呼吸を必死で繰り返す。息が出来ない。呼吸をすることを身体が拒絶している。苦しい、痛い、いたい。

「っあ、く…うあぁ、あ、あ…!」
「遊星…大丈夫、大丈夫だ」
「あぅ、う…っ…じゃっ…く、っ…!」
「遊星、」

 痛い、痛いんだと縋るように呼べば、ジャックはただやさしく名前を呼んで、感覚のない手を取って何度も大丈夫だと言ってくれた。彼だって同じ痣を持つ者、影響が無いわけではない筈なのに。
 どくどくと脈打つ痣に宥めるような口付けがおとされる。引き攣れるように震える右手に、それよりも少し大きな手が合わさりそっと指を絡めて、安心させるようにぎゅっと握る。たとえ気休めにしかならなくても、痛みに折れそうになる心はそれだけでひどく落ち着くことが出来た。
 ジャックがいるなら大丈夫。そんな気持ちが根拠も無く沸き上がって、安堵と同時に堪えていた涙腺が決壊する。

「…泣くな」
「っ、う…ぁ、」

 ぼろぼろと零れる涙をジャックの唇が拭い、やさしい口づけが何度も降る。少し眉根が寄せられているのは、やはり彼にも影響があるからだろうか。そう思うと無性に申し訳無くなって、折角拭ってもらった涙がまた溢れ出した。

「…ジャッ、ク…っ、」

 シーツを握り締めていた左手を、よろよろとジャックの肩へと伸ばす。このまま抱き締めたいのに今の自分には左腕を持ち上げるのが精一杯で、肩から感覚のない右腕は指先まで痙攣するばかりで動かすことも出来ず。歯痒さに顔を顰めれば、ジャックは此方の思いを汲んでくれたのか、右手に絡めていた手が背中に回り抱き起こしてくれた。
 近くなった身体を自分は左腕だけで抱き締め、ジャックはもう一方の腕も背に回す。
 視界に僅かにちらついた彼の痣は、少しだけ赤い光を帯びていた。

 ――ああ、やはりデュエルなんてしなければよかったのか。
 思うように、好きなようにデュエルをすることが、少しだが漸く出来るようになったのに。身分も立場も捨てて、あの頃に戻って、漸く、ようやく。
 それなのに。

「遊星…、」
「…すま、な…っ、すまな、い…!」
「いいから、泣くな…」

 逞しい、自分を支えるだいすきな腕にぎゅっと、強く強く抱き締め返される。
 だらりと力無く垂れる己の右腕は、動かない。


(課せられた運命から逃れるなんて、無理なのだろうか)
























イリアステルとAMの手から逃れて駆け落ち的な、そんな感じ

痛がる遊星とそれを宥めるやさしいジャックが書きたかっただけ