※ハロウィンネタ。五人同居設定でアグレッシブさ割増遊星さんを筆頭にジャックフルボッコ大作戦。
尻切れとんぼなぐだぐだギャグ。
わあっ、と、リビングの扉を開けた先に待ち構えていたのは二つの小さなゴーストだった。
「トリックオアトリートー!!」
何だこれは。同時に響いた声に、帰宅を告げるのも忘れてジャックはぽかんとしてその場に立ち尽くす。眼下に見留めるのは白い塊が二つ。つり上がった目と大きく裂けた口が書かれた白いシーツを被るそのゴースト――というのは見た目の話で、中身は十中八九双子の仲良し兄妹だろう――は、長身のジャックの足元に纏わりつくようにして開口一番そう言った。
トリック・オア・トリート? 何処かで聞いたフレーズにジャックは心中で首を傾げる。はて、何だったか――何にせよこの二匹のゴーストはジャックの帰りを見計らって驚かせるつもりだったらしく、片方は大袈裟な身振り手振りを繰り返しもう片方はその影で控えめながらオバケに見えるよう努めていた。結い上げた髪を解けばそっくりな筈の顔が見えなくとも直ぐに判る、前者が兄の龍亞で後者が妹の龍可だろう。どちらかといえば驚くより唖然とする方が大きかったジャックは直ぐに冷静な思考を取り戻し、額に手を遣りながら漸く声を出す。
「…何をやっているんだお前たちは」
「何って、ハロウィンのお祭りだよ!」
「10月31日よ、今日」
知らないの? と、被ったシーツをばさりと剥いで淡い緑の髪をした双子が姿を現す。思った通りの展開だったが、予想に反してその格好は何時ものお揃いのパーカー姿ではなく、兄の方は包帯をぐるぐる巻き付けたミイラ男、妹はまるでカードからそのまま出て来たかのような妖精の姿で。
「えへへ〜驚いた? ジャック」
「呆れられてるんだってば…」
瞳を輝かせ詰め寄ってくる龍亞に、歳の割に聡い龍可は自らも呆れたように溜息を零す。流石にハロウィンが何かは知っているが、完全に忘れていたジャックはああ今日がそうだったかと心中でごちた。恐らく双子の仮装姿はアキか遊星の仕業だろう。随分念入りにやったものだと、ジャックは龍可に続くように溜息を吐く。
「…なんだ、菓子でも強請る気か。生憎だが何も無いぞ」
「ちぇー。お菓子くれないならイタズラするよ!」
「ほほーうこのキングにイタズラだと? いい度胸だ、やれるものならやってみるがいい!」
「う、…み、見てろよ! 今日こそキングに勝ってやるからな!!」
「フン、キサマ如きのイタズラなど恐るるに足らん!」
びしっと人差し指を突き付け虚勢を張る龍亞に、蟀谷をひくつかせたジャックは子供相手だろうとキングは容赦せんぞ!と声高に宣言する。相変わらず同レベルな遣り取りを止めるのは何時も第三者で、二人の横で傍観していた龍可は慣れた様子ではいはいと制止を掛ける。
「勝敗とかはどっちでもいいけど、ねえジャック」
「何だ」
「油断は禁物よ、デュエル以外でも」
「…何?」
「その通りだ」
「!? な、…ぐはッ!!」
突如響いた低めの声と共にドゴォッなんていう鈍い音がして、ジャックの身体を容赦の無い衝撃が襲った。つい先程ジャックが開けた戸枠の天辺、そこに手を掛け飛来した声の主――遊星は、後ろからジャックの背中を全力で蹴っ飛ばした後吹っ飛んだジャックを上手く避けた(否、遊星が双子の居ない方へジャックを蹴り飛ばしたが正しい)双子の横へ華麗に着地する。完全に予想だにしなかったところからの攻撃をもろに受けたジャックは受け身も取れず、三人が見つめる中で盛大に顔面からフローリングへ突っ込んだ。無表情ながらに何処か満足したような顔の遊星がぱたぱたと両手についた埃を払うその隣で、うわあ痛そう、と双子が同時に憐れんだ言葉を零す。
「……い、いきなり何をする…遊星……」
「ハロウィンだからな。過信は自滅を招くぞ、ジャック」
「この暴挙の何処にハロウィンと関係がある!!」
「ジャック鼻血出てるよ…」
天下のキングとは言えダメージは流石に大きい。よろよろと何とか起き上がるジャックに、遊星は涼しい顔で躊躇いもなく言ってのけた。あんまりにもあんまりな理解し難い理由に、ジャックは龍亞に指摘された鼻血を龍可の差し出したティッシュで拭いながら遊星を睨みつける。が、しかし直ぐにその紫眼を見開くことになって。
耳と尻尾。そこに居たのは確かに遊星で服装も見慣れたものだったが、四方八方に跳ねた髪の間には黒い毛並のとがった耳が、正面からは見えないジャケットの裾の下辺りからは同じ毛色の長くしなやかな尻尾が生えていた。どう転ぼうにもそれは自然に生えているわけではなく作り物だったが、取り敢えずジャックの脳内を占めた疑問は何故そこで黒猫を選んだ、というのが大半だった。
ぶつけた鼻を押さえたまま暫し呆然とした後、ジャックは漸う口を開く。
「…そこは普通狼男ではないのか?」
「? さあ…? アキに訊いてくれ」
もっと重要な部分を色々すっ飛ばしたジャックの疑問に、猫耳猫尻尾の遊星は頭上に疑問符を浮かべて首を傾げた。今は買い物に行っているがと続ける遊星のその様子を見たジャックは、どうやらこの事態の首謀者であるらしいアキにかつてない程の賛辞を心の中で贈った。グッジョブだ、十六夜…! 同時に鼻血の出血量が増えたのは言うまでもない。
「しかし、こいつらだけでなくお前まで仮装か…」
双子はまだ11歳だが遊星はもう18だ。子供という年齢でもない。いい歳して何をやっているんだと溜息混じりに言えば、ミイラ男と妖精と黒猫の三人は同時に顔を見合わせ、一拍置いて同時にジャックへ向き直り。
「ジャックの分もあるぞ」
遊星の語尾に双子の「よ」が重なって響く。
そう言って三人が指差したのは、テーブルの上に畳まれた黒い服だった。
遊星さんでジャック蹴り飛ばせたから満足です