※ジャックが(精神的に)小さくなりました。
「遊星っ!」
「? 何だ、ジャ…うわぁ!?」
弾んだ声に呼ばれ、作業の手を止めて振り返ったと同時に強烈な衝撃が全身を襲った。視界に一瞬揺れた金糸、全体重を乗せ飛びついて来たそれは誰あろうジャックで。予想だにしなかった彼の突飛な行動に驚く間も抵抗する間も無く思い切り抱きつかれる。
「っ、おい、いきなり何をするんだ!」
「遊ぶぞ遊星! デュエルしよう!」
「じゃ、ジャック!?」
咄嗟に怒鳴って自分よりも図体のでかいそれを何とか押し返そうとするが、ジャックの口から出たとんでもない言葉――というよりもその口調と声色とテンションに、胸板に置いた手から力が抜ける。何だか嫌な予感がしてよくよく見れば、友の顔に浮かぶのは幼い頃ならまだしも今の彼では考えられないような満面の、屈託のない笑み。
「ど…どうし、たんだ…?」
「? 何が」
あまりの衝撃に脳内の電算機は完全に稼働を停止している。何と続けていいか解らず黙らざるを得ないでいると、ジャックは尚も遊べ、だのデュエルしろ、だのを繰り返していた。何が起こったのかさっぱり、というか寧ろ彼に何が起きた。外見的な変化は何も無い。ただその表情と、声音と、纏う雰囲気が全く違う。無駄なボキャブラリーをフルに活用し低い声でじわじわ攻めてくるジャックではない。揶揄う為の質の悪い冗談ではとも考えるが、自分を抱き締める男からはいっそ怖いくらい何の邪念も感じられなかった。
なんだこの、純粋さは。
「ゆうせぇー…」
「え、…あ、何だ?」
纏まらない思考を一人悶々と巡らせていると、反応のないことに機嫌を損ねたのか拗ねた幼子のように名前を呼ばれた。慌てて未だ抱きついたままのジャックへ視線を戻すと、先程の笑みも何時もの鋭い肉食獣か猛禽類のような紫眼も何処へ行ったのか、すっかり不機嫌そうに眉を顰めていて。
「オレよりそっちの方が大事なのか」
「え、」
「先刻から何も言わないし」
「いや、それは…」
「オレは遊星とデュエルがしたいのに…」
覇気のなくなった声音でそれだけを呟いたジャックは肩口に顔を擦り寄せる。ぎゅうと抱き締める腕に力が篭った。
――確かにこの事態は異常だ。ジャックの身に何かが起きたことは確かであるようだが、素直で捻くれていない言葉が彼の口から零れるのは久し振りだった。それこそ、自分たちが幼い頃のような。そんなジャックの様子に何処か懐かしさを覚えて、抱き締められた状態から何とか腕を回してぽふぽふと頭を撫でてやる。
「…わかった、デュエルだな。やろう」
「! 本当か!?」
「ああ」
「っ…遊星大好きだ!!」
「!」
此方の承諾にぱああ、と顔を輝かせたジャックに再び思い切り抱き締められた。勢いも力加減も容赦が無く少々苦しいが、ジャックが嬉しそうなので大人しく身を任せる。
抱き締められながら、大好き、なんて普段言われない言葉に少しときめいてしまったことは、秘密にしておくことにした。
見た目は大人頭脳は子供!