※1年くらい前のサテライトにてクリスマス。鬱。















 煤けた幌布一枚を隔てて、盛り上がる仲間たちの明るい声が聞こえる。背後にそれを聞きながら、遊星は疲れたように小さく溜息を零した。
 12月24日、クリスマス・イヴ。世界中が幸せな時間に包まれる日。それはこの荒廃したサテライトも例外ではなく、旧地下鉄跡にある遊星のアジトでもささやかな宴会が行われていた。何時もより少し豪華な食事と酒、小さいけれどもケーキを用意して。
 幌の向こうにいるラリーとブリッツ、ナーヴ、タカの四人は、アルコールの入った勢いと未だ未だ尽きない話題を持てあましてパーティを楽しんでいる。その中から遊星はひとり席を外して、住居の奥に設えた狭い台所に立っていた。何をするでもなくただ立ち尽くし、仲間たちの声を振り払うように弱く頭を振る。
 ――楽しくない、わけではない。折角皆で用意したパーティなのだ、遊星だって準備の時から楽しみにしていた。
 ただ、あの中に居ると、あの楽しそうな声を聞くと、埋めようのない孤独を感じてしまうのだ。
 たった一度。たった一度だけ過ごした、聖夜の記憶の所為で。

「(――…ジャック、クロウ、鬼柳……)」

 目を閉じて、遊星は記憶の中に思いを馳せる。
 パーティをやろうと、突然言い出したのは鬼柳だったか。突拍子のない提案に、ジャックとクロウと共に呆気に取られたのを覚えている。年上なのに誰よりもはしゃぐ鬼柳に呆れつつ、結局四人とも乗り気で。料理を用意して、ちょっとばかり良質な酒を調達して、夜が明けるまで他愛もない話を繰り返した。酔い潰れるまで騒いで、最後には四人一緒に狭いベッドで眠ったのだったか。色々とひどい有様だったのも笑いの種に昇華されて、今では考えられないくらい笑っていた。 ――二年前の、話だ。それから、色々あって四人ともバラバラになってしまった。
 同じサテライトに住むクロウも一応誘ったのだが、彼には彼の、共に過ごすべき人がいる。ジャックは、今日もシティで決闘をしているのだろう。鬼柳は――きっともう二度と、逢えない。
 あの時の記憶を共有する仲間は遊星自身のみで、その事実が遊星をひどく孤独に思わせる。自分を誤摩化しながら宴の準備をしていたものの、始まってしまうとそれは殊更強く感じられた。

 幌の向こうからどっと笑いが起こる。そちらへ向かえば、きっと歓談が自分を孤独ではなくしてくれるだろう。けれども同時に様々なことを思い出させるその空間に、虚しさを感じながら居続けるのは辛かった。何よりも、こんなに良い仲間がいるのに虚無感を感じる自分がいることが遊星は嫌だった。だから適当な理由をつけて、逃げるように身を隠した。
 誰も居ない台所。テレビから流れるノイズ混じりの音楽や仲間たちの声と布で隔てられたそこは、異様な程静かに感じる。

「…寒いな、」

 呟いて、遊星は自分の身体を抱き締めるように腕を回した。隙間から流れてくる冷たい、冬の地下の空気に、手袋を外した指先が冷えを訴える。
 ずるずるとその場に頽れ、ぬくもりを逃がすまいと膝を抱え、顔を埋めた。そうでもしないと、自分の体温すら逃げていってしまいそうで。

「…寒い…」

 冷えた空気と孤独が、周囲に膜をつくる。すべてがくぐもって、ひとりだけその場に取り残されたような感覚。
 仲間たちの声も記憶の中の声も、今はひどく遠い存在だった。



(――世界に幸せがやってきても、あの悲しみが消えることは、ない。)
























本編も鬱だった2008年クリスマス