※Dミスティ×遊星















 声が響く。

「そんなに怒らないで頂戴」

 落ち着いた、しかし凛とした響きを持つそれは、まるで静かな水面にゆるく波紋を描かせる水滴の如く落とされた。己の聴覚を揺すったその声に、遊星は眉間の皺を更に深くする。
 暗闇に視界を奪われ、四肢を拘束する鋼に身動きを封じられ、黙々と逃げ出す算段を立てる以外に沈黙を貫いていた遊星の意識を揺する声。目の前に居るであろうその女性のそれは、宥めるようでいて威圧感のある、強制するような声だった。

「折角のかわいい顔が台無しだわ、ニューキングさん」
「……」

 顎に添えられた滑らかで細い手を、乱暴に首を振って払う。まあ恐い、と、そう言いつつもくすくすと微笑する声は欠片の怯えも感じられず、寧ろあまりに落ち着き払った声に遊星の方が気味の悪さを覚える程だった。微かな灯り一つ無い暗闇の所為で相手の顔が見えない現状が、その得体の知れない不気味さを助長させている。
 ――女性は自らをミスティと名乗った。遊星が過去にネットワークを彷徨い得た知識が正しければ、それは確か世界的に有名なトップモデルの名だった筈だ。サテライト住民である遊星とは、塵ほどの縁もない人物。そんな人が何故、こんな場所に遊星を拘束しているのか。

「どうして、とでも言いたそうな顔ね」

 まるで心を読んだように落とされる声音に、彼の人がいるであろう暗闇を遊星は鋭く見据えた。しかしそこにあるのは何処までも続く暗闇と、くすくす響く微笑のみ。
 気味の悪さに、背筋を冷たいものが伝う。

「おかしいわ……もうあなたは解っているのではなくて?」

 意味の分からない言葉に遊星は眉根を寄せた。自分は既に解っている。わかって、いる……?
 ミスティの言葉を反芻し、次の瞬間遊星ははっとして目を見開いた。――この暗闇で、何故彼女には此方の表情が判る!

「まさかっ……! ッ、!」
「そう、あなたが思っている通り」

 氷塊を飲み込まされたような悪寒に遊星は思わず声を荒げるが、それは刹那右腕に走った痛みに遮られてしまった。拘束されたままのそこに目を遣れば、自身に刻まれた竜の痣が赤い光を帯びて暗闇に浮かび上がっている。
 何故もっと早く気付かなかったのか。一筋の光もない闇の中で自由を得、シグナーである遊星を捕らえる者など、導き出される答は簡単だった。
 光無き世界の住人。闇と死に愛された者。――ダークシグナー。

「本当なら、あなたに恨みはないのだけれど……」
「ッ! がッ、ぁ、う…!」

 警鐘を鳴らすような疼痛と共に光る己の痣。その他に光源を感じて遊星が視線を声の方へと戻すのと同時、細い手が再び遊星へと伸び、曝け出された喉を捕らえた。続く腕にあるのは禍々しい光を放つ痣。爬虫類を象るそれは、あの日シティに現れた地上絵と同じ。

「ッぐ、…は、なせ、っぁ、…かは…ッ!」

 女性特有の細い両の手が、身動きを封じられ抵抗出来ない遊星の首を思う以上に強い力でぎりぎりと絞め上げていく。自力で引き剥がすことすら許されない遊星が解放を要求しても彼女の手は一向に緩む気配はなく、呼吸を阻まれた遊星はぜいぜいと喘鳴を零すことしか出来ない。黒紫の光に照らされぼんやりと浮かび上がる双眸は、黒い眼球と深く暗い闇を溶かしたような色で以て遊星を見つめるだけだった。
 その瞳をすぅと細めて、ミスティは静かに、しかし確かな意思を持って宣言する。


「――黒薔薇の魔女はあなたのせいで救われてしまった。私はそれが許せない」


 だからあなたも苦しみなさい。
 徐々に薄れていく意識の中、遊星は確かな復讐の言葉を聞いた。
























ミスティさんと絡ませるに丁度いいネタまで本編が来たので(・∀・)
隠す必要ないですがこっそり絞首萌えです