その日のスケジュールを全て終わらせ、疲れた身体を広い寝台に沈める。体重を受け止めるマットレスと毛布は柔らかく、一目で上質なものだと分かるそれは専属の使用人によって毎日きちんとベッドメイクがなされており、不快感を感じる隙などない。けれども代わりに、酷く冷たい虚しさを覚えるものだった。
シティに来てキングの座につくと同時、与えられたのはそれに相応しい上等な家と上等な家具だ。シティを一望できるビルの屋上に建てられたペントハウス。其処にあるのはどれも、あの荒廃したサテライトの、廃品から拝借したような粗悪品とは全く違う。質の悪いスプリングのお陰で身体を痛めることもなければ、サイズが合わずに身体がはみ出すことも無い。
キングサイズの寝台はしかしその分、一人で眠るには広すぎる。羽毛の詰まった毛布を肩まで引き上げても底冷えするような感覚に身を震わせた。
ひどく、寒い。
「(……遊、星、)」
隣に居ないあの温もりを探して手を彷徨わせる。ただの妄執だと理解っていながらそうせずにいられないのは、この寝台がひどく冷たいから――そう自分に言い聞かせ、迷う心をこの瞬間だけ正当化させた。ぐっと目を閉じて、あどけなく眠る姿を思い描きながら、今も鮮明に思い出せる温もりを半ば必死になりながら探す。探して、探して、けれども伸ばした手は虚空を掻き、冷たいシーツに落ちるだけで。
そうだ。すべて捨ててきたのだ。己が栄光をこの手に掴む為に、故郷も、仲間も、何もかも。
すべては自分の選択した道。最早後に戻ることなど出来ないのだ。あの誘いに乗り、自分を慕う少年を利用し、唯一無二の存在を裏切ったあの瞬間から。
すべてを失ってでも手に入れたいものがあった。何を置いてでも、手に入れたいものが。
そうだ、だからオレは――。
「…ッ…!」
目を開けて、この寝台の上には己の他に誰も居ないことを認識する。認識した途端、抑えられない感情の波に、視界が歪む感覚がした。
――違う。捨てられるわけがなかった。忘れられる筈がなかった。ずっとずっと、誰よりも長く一緒にいたのだ。他の誰よりも大切な存在を、忘れ去ることなど出来る筈がなかった。仲間なんて簡単な言葉では片付けられない、家族か、或いは兄弟に似た、しかしそれ以上に大切な。
「…ッ…、…遊星…っ!」
ぎり、と力任せに歯を喰い縛る。浮かぶのはあの少年の顔。片時も離れず生きてきた、かけがえのない存在。
冷たい、無機質にも感じる真白のシーツに、想いをぶつけるように爪を立てた。
一応ジャ(→)遊
括弧なのは同じ時間軸で遊星さんも淋しがってますという以下略