ちょいちょい、と黒いグローブに包まれた白い手が呼ぶ。何の用かと作業の手を止めて傍に寄ると、気を抜いていた一瞬の隙を衝いて思い切り引き寄せられた。突然のことに、わけがわからないまま体勢を崩す。足を滑らせ倒れ込んだ身体は器用にぐるりと反転させられ、すとんと降ろされたそこは膝の上だった。
 驚きに僅かばかり心拍数の上がった心臓を落ち着かせながら、何とか安定感を得ることが出来てほっと息を吐く。しかしどういうわけか、感じたのは若干の息苦しさだった。
 ……何時の間にか、胸と腰の辺りに腕が巻き付いている。

「……鬼柳、」
「なんだ?」
「いきなりはやめてくれ…驚く」
「ははっ、悪い悪い」

 からからと笑いながら、後ろから抱き込むかたちでべったりと背中にくっつく鬼柳は身体に回した腕に力を篭めてきた。ぎゅうぎゅうと力一杯抱き締められ、苦しい、もうちょっと緩めてくれ、と鬼柳に注文をつける。それを素直に聞き入れた鬼柳の腕は一旦離れ、今度はやんわりと抱き締められた。
 首筋の辺りで、ほぅ、と満足そうな吐息が零れる。

「遊星は抱き心地最高だな…この、腕の中にすっぽり収まる感じ、すげー安心する」
「…そういうものなのか?」
「そういうもん。あー満足…」

 そう言いながら、鬼柳はくっつけた頬を更に擦り寄せる。顔は見ることが出来ないが、随分と機嫌がいいらしい。満ち足りていると言う声音は、幸せそうだ。
 肌を撫でる彼の髪がくすぐったい。それでも、この膝の上から逃げようとは思わなかった。
























膝の上@京遊
鬼柳さんならこのくらい強引でも許される気がする