添い寝












  ――今日だけだよ。そう言ってブルーノは寝床のソファから身を起こし、階上へと俺を促した。眠れずに冷えてしまった身体には彼が使っていた毛布がかけられ、微かに残る体温にやわく包まれながら冷たい鉄の梯子を上る。疾うに夜は更け、戻って来た自室は煌煌とした月明かりで仄明るかった。
 ブルーノは俺の肩を抱いて、先程まで眠れずにいたベッドへ入るように言う。どうしても眠れる気がしない。もう何度も経験した不眠の症状が今日は特に顕著だった。それを取り繕いもせず――精神的に不安定でそんな余裕はなかったのかも知れない――そのまま告げる。しかしブルーノは大丈夫だよと穏やかな声で囁いて、何度も寝返りを繰り返した所為ですっかり乱れてしまったシーツを軽く手で整え、一足先にベッドへと身を乗り上げてしまった。俺の分の毛布に潜り込みもぞもぞと体勢を整えると、俺へ向けて毛布を持ち上げ、ぽふぽふとベッドを叩く。
 一連の動作で彼が何をしようとしているかはわかっていた。ここへ来い、と自分の隣を示すブルーノはすっかり寝る体勢を整えていて、しかしそれは19にもなって――しかも眠れないからという理由でそうそう素直にできるものでもなく、俺はどうしていいかわからず立ち尽くしてしまう。
「遊星」
 落ち着いた声。おいで、大丈夫だよ、と安心させるように囁くそれは躊躇う俺に切欠を与えるには十分だった。
 自分のベッドに遠慮しながら近付いて、自分のために空けられた場所へそろそろと潜り込む。瞬間、それを見計らったように動いたブルーノの腕にぎゅっと抱き竦められた。驚いて身体を強張らせると、とても近い位置でもう一度大丈夫だよと囁かれる。それだけで不思議と力が抜けて、同時にあれだけ眠れなかった自分のベッドが、それまでと全く別のもののように思えた。まるで魔法だ、とぼんやり考える――ブルーノがいるだけで、こんなにも違うなんて。
 肩までしっかりかけられた二人分の毛布に、二人一緒になって包まる。ブルーノの体温は俺よりほんの少し高く、互いに身を寄せ合えばとても、とてもあたたかかった。
 抱き込まれるまま広い胸板に頬を押しあて、彼の鼓動を聞きながら目を閉じる。――今夜は、よく眠れそうな気がした。