きえる












 粒子の生み出す光の奔流。流れ込んでくるそれを己は知らない、だが解る。それは紛うことなく己のもの。失っていた最後の欠片。
 己の全てを記したそれは、私が私になる前の、「僕」の記憶。

(――私、は)

 うつくしく煌めくそれを身に受け、刻み込まれたプログラムが起動する。一度切り離したものを戻す、ただそれだけの作業だった。それはすぐに完了し、己は真なる己自身を取り戻す。――しかし。

「――ッぐ……!!」

 バチン、と爆ぜるような音が全身を貫く。誤動作が起きたのはほんの一瞬だった。受け入れるべきそれを、二進数で構成されている筈の意識が拒んだのだ。
 ぐらりと頭が揺れる。割れるような激痛に思わず呻いたがもう遅い。瞬く間に己の内に流れ込む数え切れない情報。記憶という名のそれが、己のあるべき心が、喪失していた部分を埋めていく。

(――待、て)

 より強い命令に塗り潰されていく思考が叫ぶ。100%に近付いていく数値。逆らうことの出来ない真実の激流に流されながら、プログラムから外れた意識が懇願する。
 待ってくれ――待ってくれ。少しでいい、少しだけ時間を。

(まだ、私は)

 彼がそこにいるのだ。これから待ち受ける己の運命に、傷付きながらも立ち向かわねばならない彼が。大切な仲間が――「私」が護るべき、存在が。

(私は――わたし、は、――ッ、――)

 だから、あと少し、だけ――。