徹夜続きで変な思考回路してるブル遊はかわいい
つい、で済ませることにも限度というものがある。
「……、」
ぼんやりと上を見上げて漸く気付く。朝だ。半地下のガレージは一段高い位置にある窓から差し込む陽射しでいつの間にか煌煌と照らし出されていた。夜が明けたのは何度目だろう。ついの徹夜が何日も重なることは何度もあったが、それを憶えていないほどのものは久々だ。眩しい朝日をぼーっと眺め、のろのろと作業途中のモニターに視線を戻す。プログラミングは進んではいるが、それを書いた憶えがない。睡眠不足を極めた脳は最早正常な起動を欠いており、長いこと手だけが無意識にプログラムを打鍵し続けていたようだった。
隣に座るブルーノも似たような状況だろう。カタカタと途切れないタイプ音の方に視線を投げれば、彼はこちらに気付くこともなくモニターと睨み合っていた。その目元にはくっきりと濃い隈が出来ている。相当な酷い顔だが、それは自分も同じだという想像は回らない頭でも容易だった。何しろ同じ時間だけ同じように作業を続けているのだから、同じ状況に陥っているのが当然というもので――つまるところ彼も自分と同じく、限界なのではないだろうか、おそらく。
ガタ、と椅子を鳴らして立ち上がる。少しふらついた所為で思いのほか大きな音が立ってしまい、流石に察知したブルーノがこちらを向いた。吸い込まれそうな濃灰は随分と淀んでいる。
「遊星?」
どうしたの、と僅かに掠れた声で言う彼の腕を掴んで強引に椅子から立たせる。彼は首を傾げたものの、不審というよりは不思議そうな顔だった。何も答えないままに彼の腕を引いて階上へと向かうのを拒むこともない。嫌がられないことには正直助かった。そう思う程度には自分の頭も碌に働いていない。
虚ろな表情でされるがままのブルーノを引っ張り、辿り着いたのは屋根裏の自室。何日使っていなかったのか憶えていないベッドにもそもそと潜り込んで、再度ブルーノの腕を引く。
「寝るの?」
後に続いて入ってくるブルーノの問いにただ頷いた。やっと示したこちらの意図にそれまで呆けていた表情が明確な笑みを描く。へらりと笑ったブルーノは嬉々とした様子で、狭いからくっついていないと、とでも言うように抱き締めてきた。そうされることで自分の思考は漸く満たされたのだろう。どっと押し寄せた眠気に、欠伸が出るのを堪えきれなかった。一枚の毛布に二人で包まり、ほう、と息を吐く。長らく無人だった布団の中も互いの体温で問題なく暖かい。全身の力を抜くとみるみるうちに睡魔が襲ってきた。
おやすみ、と彼が囁くのと同時に額へやわらかな感触。それを最後に、意識は深い眠りへと沈んでいった。